ダイスの話をしよう

昔、と言っても僕が初めてゲームショップに行った頃だからそれほど昔じゃあない。せいぜい、柴田亜美の漫画が毎週ファミ通*1に載っていた、アスキーからエンターブレインが独立した、それぐらいの頃の話だ。
初めてのゲームショップということもあって、かなり緊張していた僕は少し硬い動きでTRPG書籍の棚を眺めていた。今思うと、店員には万引きと思われてもおかしくないだろう、それほど緊張していた。もちろん学生、しかもまだ義務教育課程中という僕にはルールブックは明らかに“高い”買い物であったし、交通費に大半の金額も持っていかれた財布の中にそれを買うだけの残金もなかった。
ただ見ているだけ。それだけのことだが、でもそれで十分心躍ったこと、その思い出だけが今でも水晶のように僕の心の奥に眠っている。
ソードワールド完全版、トーキョーN◎VA(その頃は確かRだったように思える)、クリスタニアRPG、ガープスドラゴンマーク…………。
高嶺の花であった彼女ら*2を眺めながら、僕の心は既にまだ見ぬ冒険の大地に出向いていた。
――――でも、結局買えたのは6面ダイス5つに、形の気に入った10面ダイス2つだけで……。
そして、僕がTRPGを本格的に初めるのはそれから2年ほど後のことになる。


今、僕の机の上に転がるダイスの中にその時買ったダイスは1つもない。どの時に無くしたのか、それとも他人のダイスに混じっているのか。
「ダイスは周るんですよ。いつでもね」
上手いこというな、と聞いたとき感心したものだった。……だれが言っていたのか、今じゃ思い出すことも出来ないのだが。
でも、それでも、あの時買ったダイスと同じルビーのように赤く透明の10面ダイスを見るたびに、僕はセピア掛かったあの日のことを思い出すのだった。

*1:ドキばぐ、ね

*2:男より女の方が何かといいと思う次第です。……なんというか、その…………擬人化、とか?